東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)101号 判決
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【説明】
「第二 原告の請求原因
一 特許庁における手続
原告は、ゴシツク体の漢字で「酪農牛乳」と左横書きしてなる商標(別紙(一)参照。以下、「本願商標」という。)につき、商標法施行令第一条別表第三一類牛乳を指定商品として、昭和四七年一〇月九日商標登録の出願をしたところ、昭和五一年一月三〇日拒絶査定を受けたので、同年二月二八日審判の請求をし、特許庁昭和五一年審判第一五七四号事件として審理されたが、昭和五三年三月三一日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決謄本は同年五月二〇日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点
(一) 本願商標の構成及びその指定商品は前項掲記のとおりである。
(二) これに対し、登録第四〇三九二二号商標(別紙(二)参照。以下、「引用商標」という。)は、「ラクノミルク」の片仮文名字を縦書きしてなり、昭和二四年一月七日登録出願され、昭和二六年一〇月一一日旧第四六類獣乳、乳粉及び煉乳を指定商品として登録され、昭和四六年一一月四日商標権存続期間の更新登録がされたものである。
(三) 本願商標と引用商標とを対比するに、本願商標から「ラクノーギユウニユウ」、引用商標から「ラクノミルク」の各称呼を生ずることは否定しえないが、本願商標の構成中の「牛乳」、引用商標の構成中の「ミルク」の各文字は、ともにそれぞれの指定商品との関係よりすれば、商品の普通名称をあらわすにすぎないことは容易に理解しうるものである。したがつて、両商標の自他商品の識別標識としての機能を果す部分は、本願商標にあつては「酪農」、引用商標にあつては「ラクノ」の各部分にあるというべく、これらに接する取引者、需要者は、該「酪農」並びに「ラクノ」の各文字より生ずる称呼をもつて取引に当る場合も決して少なくないということができる。そうとすれば、本願商標からは該「酪農」の文字に相応して「ラクノー」の称呼、引用商標からは該「ラクノ」の文字に相応して「ラクノ」の称呼をそれぞれ生ずるものといわざるをえない。
そこで、前記「ラクノー」の称呼と「ラクノ」の称呼とを比較するに、両者は、第一音から第三音までの各音を共通にし、異なるところは語尾における「長音」の有無にすぎない。しかも、該差異音は、発音するかしないか不明な程弱い音であるばかりでなく、比較的聴別し難い語尾に位置することよりすれば、両者をそれぞれ一連に称呼した場合には、その語尾、語感はきわめて相紛らわしく、聴者をして聞き誤らせるおそれが充分にあるといわなければならない。
してみれば、本願商標と引用商標とは、その外観、観念について論及するまでもなく、前記称呼を共通にする類似の商標であり、かつ、その指定商品についても、本願商標の指定商品は、引用商標の指定商品に包含されているものである。
(四) したがつて、本願商標は、商標法第四条第一項第一一号の規定に該当し、登録することができない。
三 本件審決の取消事由
本願商標及び引用商標のそれぞれの構成、指定商品等についてした本件審決の認定は争わないが、両商標は、観念における顕著な相異と発音の相違に基き称呼上も明瞭に識別できる非類似の商標であるにもかかわらず、本件審決は、両商標が称呼上類似の商標である旨の誤つた結論に至つた違法があるから、取消されるべきである。」
【判旨】
二原告は、請求原因三において、本願商標と引用商標とが称呼上類似するとした本件審決の判断を誤りであると主張するので、以下この主張の当否につき検討する。
本願商標及び引用商標のうち自他商品の識別標識としての機能を果す部分は、それぞれ「酪農」及び「ラクノ」の各文字であることは当事者間に争いがなく、「ラクノ」の文字から生じる称呼が「ラクノ」であることも明白であるところ、原告は、本願商標の「酪農」の文字から生じる称呼は「ラクノウ」である旨主張する。<証拠>によれば、「酪農」の称呼は、これを仮名文字で表現する場合、「ラクノウ」とも「ラクノー」とも表わされるもので、原告の主張するとおり普通には第二音ないし第四音が高く発音されるが、語尾の第四音は「ウ」と明確に発音されるものではなく、その前の第三音「ノ」の母音「オ」の長音であり、「ラクノウ」又は「ラクノー」の末尾「ウ」又は「ー」は長音であることを示すものであることが認められる(なお、昭和二一年一一月一六日内閣告示第三三号「現代かなづかい」の細則第一六及び備考第五参照)。
そこで、本願商標の「酪農」から生じる称呼「ラクノウ」又は「ラクノー」と引用商標の「ラクノ」から生じる称呼「ラクノ」とを対比するに、両者は、第一音ないし第三音がそれぞれ共通しており、相違するのは、語尾に長音を有するか否かという点及び「ラクノウ」又は「ラクノー」は第二音ないし第四音が高く発音されるのに対し、「ラクノ」はアクセントの置き方が定め難いという点であるが、相違する語尾音は、前記のとおり、その前の母音「オ」の長音であつて、通常前者に吸収されてやや聴き取りにくい性質のものであることのほか、「酪農」が搾乳又は乳製品を製造する農業の観念を生じさせるのに対し、「ラクノ」が特定の観念を有しない造語であるとしても(もつとも、引用商標「ラクノミルク」のうち「ミルク」は「牛乳」の観念を生じさせることは明らかであり、「ラクノ」と「酪農」の各称呼は第一音ないし第三音がそれぞれ共通であることからすれば、むしろ「ラクノ」から「酪農」を連想する者は少なくないことが推認される。)、前記指定商品の取引者、需要者について考えると、一般にはこの差異がそれぞれの称呼において明瞭な音長の相違を生ぜしめるものとは認め難いことに徴すると、「ラクノウ」又は「ラクノー」と「ラクノ」とがそれぞれ聴者に対して与える全体的な印象は、互いに相紛れるおそれがきわめて大きいといわざるをえない。
したがつて、本願商標と引用商標とは、本件審決が判断するとおり、称呼上類似するものということができるから、原告の主張は理由がない。
(荒木秀一 橋本攻 永井紀昭)